1章

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―――ふと、何かの気配がした。 うっすらと眼を開ける。 「……え?」 視界に入ったのは白い毛皮。 黒いタキシードに身を包んだ白い長身――頭には長い耳。 その姿はまるでウサギのよう…… 「――誰?!」 事態に気付いたときにはすでにウサギが部屋から出ていった後だった。 「な、何だったの……泥棒?」 そう思い、辺りを見渡してみた。 荒らされた形跡は見当たらなかった―――――しかし別のモノが見つかった。 「!!!――っ誰!?」 窓辺に黒いローブを来た人が立っていた! 頭からすっぽりフードを被っていて顔は分からない。 ただ口元だけが見えていた。 「僕は………チェシャ猫だよ。」 そしてその口はにんまり笑って言う。 「――さぁアリス、シロウサギを追い掛けよう。」 「!――どうして私の名前を知ってるの!?……あなた泥棒?」 「僕は猫だよ、アリス。」 「何を言ってるの?!あなたの目的は何っ?」 アリスは突然の事態にパニックに陥っているようだ。 「――アリスの時計を見つけることさ。」 「私の時計?……あるじゃない、ここに。」 枕元にはちゃんと目覚まし時計が置かれていた。 「それじゃないよ、君の一番大切なモノだよ。」 「私の一番大切なモノ?――意味が解らないわ。」 「シロウサギを追い掛ければ解るさ。」 チェシャ猫は相変わらず笑ったままだ。 「何で私がそんなことしなくちゃいけないの、帰って下さいっ!!」 アリスは訳が解らず怒鳴った。
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