1章

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「ダメだよアリス、シロウサギを追い掛けなければ帰れないよ?」 そう言ってチェシャ猫はアリスに手を差し延べた。 「さぁ行こう、アリス。」 白く細い指に長い爪――まるで本物の猫のように。 「――っいや!!」 その手を払いのけ、アリスは部屋を飛び出した。 バタンッ!とドアの閉まる音を背に玄関へと走る。 「っえぇ!!?何コレ?!ドアがっ!」 そこには先ほどとは全く違う光景があった。 玄関にはドアが二つあった。 「どういう事?いつの間に……」 「アリス、どっちに進むんだい?」 「!!――いつ来たの!?音はしなかったのに…。これあなたがやったの?」 「僕じゃないよ。」 「どうでもいいから元に戻して!!」 「無理だよ。」 チェシャ猫の即答にアリスはもう相手にしない事にした。 「何なのよ、こんなの有り得ない………そうよ、これは夢なんだわ。じゃないと説明がつかないし、そうでしょ!?」 「アリスがそう思うなら。」 アリスはチェシャ猫のほうを見ずにつぶやく。 「――夢ならいつか眼が覚めるはずよ……えいっ」 頬をつねってみた。 「……ま、こんな事で眼が覚めるわけないか」 赤くなった頬をさすりながらアリスは途方にくれた。 「どうしよう……」 「時計を見つけたら帰れるよ。」 アリスはチェシャ猫を見た。そして諦めたようにため息をつく。 「――分かったわよ、やればいいんでしょ」 二つのドアに向き合う。 右は高さ2メートルはある大きな扉。 左は高さ50センチ程しかない扉。 「左なんて通れるわけないじゃない」 「アリスの望む方に進めばいいよ。」 やはりチェシャ猫はあいまいな事しか言わなかった。 「――もう、じゃあ右ね!」 そう言ってアリスは右の扉に手をかけた。 その瞬間、ほんの僅かだがチェシャ猫の口が哀しそうに歪んだ。 しかしそれも一瞬の事で、すぐにいつものニヤけた笑みに戻っていた。 「――さっさと終わらせるわよ、こんな変な夢」 それにチェシャ猫はいつものように答える。 「さぁシロウサギを追い掛けよう。」
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