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「ダメだよアリス、シロウサギを追い掛けなければ帰れないよ?」
そう言ってチェシャ猫はアリスに手を差し延べた。
「さぁ行こう、アリス。」
白く細い指に長い爪――まるで本物の猫のように。
「――っいや!!」
その手を払いのけ、アリスは部屋を飛び出した。
バタンッ!とドアの閉まる音を背に玄関へと走る。
「っえぇ!!?何コレ?!ドアがっ!」
そこには先ほどとは全く違う光景があった。
玄関にはドアが二つあった。
「どういう事?いつの間に……」
「アリス、どっちに進むんだい?」
「!!――いつ来たの!?音はしなかったのに…。これあなたがやったの?」
「僕じゃないよ。」
「どうでもいいから元に戻して!!」
「無理だよ。」
チェシャ猫の即答にアリスはもう相手にしない事にした。
「何なのよ、こんなの有り得ない………そうよ、これは夢なんだわ。じゃないと説明がつかないし、そうでしょ!?」
「アリスがそう思うなら。」
アリスはチェシャ猫のほうを見ずにつぶやく。
「――夢ならいつか眼が覚めるはずよ……えいっ」
頬をつねってみた。
「……ま、こんな事で眼が覚めるわけないか」
赤くなった頬をさすりながらアリスは途方にくれた。
「どうしよう……」
「時計を見つけたら帰れるよ。」
アリスはチェシャ猫を見た。そして諦めたようにため息をつく。
「――分かったわよ、やればいいんでしょ」
二つのドアに向き合う。
右は高さ2メートルはある大きな扉。
左は高さ50センチ程しかない扉。
「左なんて通れるわけないじゃない」
「アリスの望む方に進めばいいよ。」
やはりチェシャ猫はあいまいな事しか言わなかった。
「――もう、じゃあ右ね!」
そう言ってアリスは右の扉に手をかけた。
その瞬間、ほんの僅かだがチェシャ猫の口が哀しそうに歪んだ。
しかしそれも一瞬の事で、すぐにいつものニヤけた笑みに戻っていた。
「――さっさと終わらせるわよ、こんな変な夢」
それにチェシャ猫はいつものように答える。
「さぁシロウサギを追い掛けよう。」
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