嵐の前

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葵が身体を起こしても、ファントムは目覚めない。深い眠りについている。 葵はベッドを降り、テーブルの上にあるパソコンを開く。 パスワードがかかっているが、それを破り、ファントムが先程まで何をしていたのかを知る。 送信したメールを削除しないなんて、よっぽど眠かったんだな。それともパスワードを破られない自信でもあったのか。 『Please send fragrance and serum of UA』 送信されたメールは英文で書かれいる。 海外に向けたものか。 UAの香料と血清の発注……? UAって何だろう? それ以上を知る事は出来なかったが、ファントムが、怪盗として何かを企んでいる事は安易に予想が出来る。 葵はメール送信先のアドレスを記憶して再びベッドに戻り、朝を迎えた。 「葵君、やったな?」 ファントムがベッドで上半身をゆっくり起こしながら言う。 「何をです?」 今まで僕に何度も睡眠薬を飲ませて来たけど、自分が飲まされるのはどんな感じ? 葵は心の中でクスリと笑った。 きのうファントムが葵に渡したミネラルウォーターには睡眠薬が入っていた。 葵を眠らせている間に秘密の作業をする為だ。 葵は飲んだフリをして、ファントムがシャワーを浴びている間、水割り用のデキャンタに入っていた水を捨て、渡されたミネラルウォーターをそこに注いでおいたのだった。 自分が好きなコーラを頼まず、水を頼んだのはそういう訳だ。
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