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平日の午前中、通勤ラッシュの時間帯を過ぎたあたりから、周囲の人通りが少なくなってきた。
僕(田村半蔵)は駐車場に停めた車から、引越し先のアパートへと、何度も往復しながら、一人で荷物を運んでいる。
元から一人暮らしで荷物は少ない方だが、アパートの目の前が狭い路地になっていて、車を横付けすることができず、いちいち50メートル程の道のりを何度も往復しなければならない。
今は電子レンジを抱えながら階段を上がっている。
よりによって2階建てアパートの上の階の一番奥が僕の部屋だ。
それでも、転勤先の職場からそれほど離れておらず、少し距離はあるが月極め駐車場も借りることができた。
仕事で車を使うこともあるし、休日ドライブに出掛けるのも好きだから、都内でこれだけの条件が整ってそれなりに高すぎない家賃でこの場所で暮らせるのは幸運だと思っている。
その時、僕の携帯電話が鳴った。
スマホのアプリの告知音だった。
電話ではなかったので、僕はそのまま電子レンジを部屋に運び入れて置いてから、ポケットからスマホを取り出してアプリを起動した。
画面には新しい職場の上司から、夜に歓迎会を開くから来て欲しいというメッセージとともに、会場の場所などが記されたお店のURLが表示されていた。
僕は再びスマホをポケットにしまうと、残りの荷物を取りに駐車場へ向かった。
ふと、今夜初めて会う新しい職場の仲間達のことを考えながら、転勤することになった出来事について思い出していた。
あれは半年前のことだった。
僕が大学を卒業して、新卒で採用されたのが今の出版社だった。
それからずっと地方の支社で、旅行雑誌の記者と編集を任されていた。
そんなある日、観光地のホテルの客室やグルメを特集する取材をするために、これまで何度も訪ねたことがある老舗の旅館へ出掛けた時のことだった。
いつも通りに顔馴染みの旅館の女将さんと、記事の内容や写真に取る場所や料理を打ち合わせている時、館内を一組の男女が通り過ぎて行った。
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