聖なる獣のお伽噺 ⑦ 【渡辺哉一 Ⅱ】

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「どうしたっ! 逃げるばかりじゃないかっ!?」 渡辺は後ろから追いかけながら、楽しげに言う。 うるさい! これで良いんだ。 ボクは何も答えずに、心で思う。 チェーンソーを唸らせて、廊下にある物を蹴散らし、壁を切り裂き、渡辺は迫る。 逃げてばかりじゃダメだ! だが、バックの中のメスだけで、この僕が戦えるか? いや、そうじゃない! ーーとは、言うものの……ッ!? もう直ぐ廊下を走り切る。突き当たりが迫る。 此処は2階だ。さっき、暁斗を助ける前にそれは確かめた。 上に逃げる。下に行っても、外には出れない。 各部屋に逃げ込もうにも、中が分からない以上、下手したら袋の鼠になってしまう。 一旦、外に出るという手もあるが、外の状況が分からない以上、下手したら丸見え状態になり、もう一度室内に戻るのが大変になる可能性がる。 結局、また廊下を突っ切り、上に逃げる事になるだけだ。 上に逃げれば、追い詰められてもエレベーターに入れば、必ずダクト内に逃げれる筈だ。 3階まで登ると、3階の廊下の入り口に、テーブルや椅子や取り外したドアなどで、バリケードが作られている。 最初に渡辺から逃げるのに通った時は無かった。 いつの間に作ったんだ? 仕方ない。もう1階上にーー。 もう1階登ると、4階の廊下の入り口にも、バリケード。 そして、5階にもーー。 そこで、自ら罠に飛び込んだ事に気付く。 階段には通気孔らしい物は見え無い。……やられた。 渡辺はダクトの中に逃げ込めない様に、階段に自分を閉じ込めたのだ。 バリケードを登って突破するか!? 簡単に突破出来れば良いが、手間取ればそれこそ命取りだ。 そうこうしている内に、とうとう最上階だ階段の終わりが見える。 此処で袋の鼠かと思われたが、最上階にはバリケードは無かった。 7階には廊下は無い。 代わりに階段を出ると直ぐに、両開きの扉が有り、そこを開けると眩い光がボクを照らした。
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