いつもと違う目覚め

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 早速、公衆便所で買った服に着替えて、ゴミ箱に元々着ていた服を突っ込んだ。雰囲気は随分変わったが、まだ俺の面影はある。俺は美容院を探して、髪の毛も染めることにした。どうせならオレンジ色にでもしてしまおう。  美容院に入ると、俺は店員に「腐ったミカンみたいな色にしてください」と頼んでみた。美容院を出る頃には、俺は完全にどこかのバンドマン崩れみたいになっていた。なかなか悪くない。 ◇  さて、これからどうしたものか。とりあえず、見た目に関しては、もう俺のことがわかる人間はいないだろう。しかし、これからやるべきことが思い付かない。なんとなくブラブラ歩いていると、いつも歩いていた高校の登下校道に行きついてしまった。時刻は既に昼前だ。学校でも覗いてみるか。そう思って、高校へ向かうことにした。  高校は既に夏休みに入っていた。だから、部活動をしている人間以外は学校にいない。フェンス越しに校庭を眺めていると、楓が運動場のトラックを走っていくのが見えた。楓は相変わらず頑張り屋のようだ。陸上部に入部してから、俺がトラックに撥ねられるまで、一度も休むことなく部活動に参加していた。  しかし、俺が死んでしまったせいで、彼女は三日間ほど寝込んでしまった。練習を一日休むと、取り返すのに、その何倍もかかるんだよ。それが彼女の口癖だった。悪いことをしたなと思う。  しばらくのあいだ、練習している楓の姿をぼんやりと眺めていた。なんとなく、死ぬ前の日常を思い出す。いつもこうして、端の方から楓が頑張っている姿を見ていた。  懐かしさに、気持ちが緩んだのだろう。俺はつい油断して気を抜いていた。楓が不意にこちらを向いた時、バッチリ目が合ってしまったのだ。  俺は焦って、つい挙動不審になってしまった。大丈夫だ、落ち着け。俺は変装しているし、サングラスもかけている。バレるはずがない。
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