いつもと違う目覚め

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 だけど、そんな中で、楓だけは俺のために泣いてくれていた。今だって、ここに来るまで何人かの同級生とすれ違ったが、気付く者は一人もいなかった。それなのに楓だけは、こんなに見た目が変わっていても、俺のことに一発で気付いてくれた。楓はそういう優しい子なんだ。今更になって思う。楓がいてくれただけで、俺は十分幸せだったんだな。  唯一俺のことを大事にしてくれていたのに、そのせいで、こんなにも悲しい想いをさせてしまっている。この子の悲しさを、少しだけでも減らせたらいいのに。  俺は楓の背中をさすりながら、嘘をついた。 「俺な、神様のご厚意で、生まれ変わることになったんだ。しかも、次に生まれ変わる時は、ものすごく幸せで、恵まれた家庭に産まれるらしい。でも、その前に、楓に挨拶してこいって神様に言われてさ。こんなに素敵な女の子を泣かせたままにしちゃいけないって。だから、えーっと、大丈夫だよ。俺の人生は、楓がいてくれたおかげで、十分に幸せだったから。だから、その、……ありがとう」  とにかく思い付く限りのことを言ってみた。それで多少でも楓の気持ちが和らいだのかもわからない。でも、言うべきことは言えた気がした。楓の眉毛はハの字になっていたが、それでも少し笑ってくれた。楓は小さな声で「ありがとう」と言った。  楓が少し横になりたいと言ったので、泣き止んだ彼女の手を引いて、保健室まで歩いた。先生はいなかったので、勝手にベットに楓を寝かせて、隣に座ってずっと手を握っていた。しばらくすると、泣きつかれたのか、楓はスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまった。可愛くて、素敵な寝顔だった。  気が付くと、俺の手はだんだん透明になってきていた。やるべきことが終わったのだろう。ふわりと俺の身体は浮かび上がり、やがて繋いでいた手が解けると、俺の身体はそのまま上へ上へと昇っていった。幽霊になった時は、身体は消滅したけど、魂はずっと地上に留まっていたのに。    今回はもうさよなららしい。楓が幸せでありますよに。その祈りと共に、俺の魂は光の中に溶けていったのだった。
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