2.勇司:夕陽に向かって走れ!

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   僕がこの大学界きっての名門ラグビー部に入って七ヶ月が立つ。  さすがに層は厚くて、今年はまだ公式戦に一試合も出場できていない。  高さとスピードには元々自信があって、足りなかった筋力も猛練習のおかげで、この半年でだいぶついてきた。  あとは判断力を磨くようにと監督からは言われている。  試合ではプレーの一つ一つで局面がガラリと変わる。そこで判断のスピードを上げて、的確なプレーを選択しなければならない。  そこが少し苦手なのだ。 「そりゃ、勇司の頭が悪いから仕方ないんじゃないか」  同期の田丸は、そう言ってからかう。  それを受けて僕も笑いながら、しゃらくせい! と言わんばかりにタマの鳩尾を殴る真似をするのだが、正直に言うと〝頭が悪い〟と言われるのは好きではない。  子供のころ散々そう言われていじめられたからだ。  もう一つ苦手のものがある。  それは女の子だ。  うちの部には新聞や雑誌に取り上げられたこともあるスター選手もいて、休日には練習場にも女の子がやってくることもある。  だから、レギュラー選手でなくても、それなりに女の子にモテる。  あのタマですら、彼女がいるのだ。  よくまあ、こんなのと付き合う気になるなと感心するくらい、むさい男でも、ラグビー部員というだけでモテるのだ。  だけど僕はダメだった。付き合うどころか、近くに寄ることもできない。  何故かって?   怖いのだ。  女の子が僕のことをどう思うか、それを考えると怖くて仕方がないのだ。    見かけはそれほど悪くはないらしい。  自分では自信がないから良く分からないが、タマの彼女の綾ちゃんはそう言う。  背は高すぎるくらい高いし、それに伴い手足も長い。  同じフォワードでもタマと違い、ポジション的に体重よりも背の高さが優先されるので、それなりにスマートだ。  顔も十人並みだから自信持っていいよと言うけれど、タマを選んだ綾ちゃんにそう言われても、あまり信用できない。  「後は積極性だ。勇司は名前負けしているよな。勇気を持って女の子の所に行けよ」  タマは他人事だと思って気楽に言うけれど、僕は女の子と話をすることができない。  これは奥手だからとか、シャイだからとか、そういうことではない。  文字通り話をすることができないのだ。
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