この想いは空に、君に届くだろうか

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春が来た。 青く広がる雄大な空に、ぽつりぽつりと飾られるように雲が並んでいる。 綺麗ではあるが人のあまり来ない、静かな丘の上に根を張る私がとある少女と出会ったのは、そんな春の日だった。 「綺麗な桜ね……少し、良いかしら?」 その少女は、腰まで伸ばした黒い髪に白いシャツと薄く青いジーンズを履き、片手に小さな本を一冊持っていた。 私を見上げながらそう言った少女は、地面に敷物を敷いた後に座ったかと思うと、そのまま本を広げ、それ以降は読書に耽ってしまった。 「……」 一枚、また一枚と少女がページを捲る音と、温かな日差しと穏やかな風、その風に揺られる枝の桜の音だけが、この空間の全てだった。  彼女がどうしてこの場所を選んだのか、彼女は何処から来た人なのか、私は何も知らない。 それでも私は、この時間が不思議と嫌いでは無く――誰かが私の元へ来てくれる事、私を綺麗だと言ってくれた事が、とても嬉しかった。
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