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この人は、僕の自殺未遂の事を知っているのだろうか。
「ええ……怖かったでしょう、あんな目に遭って。でも、間に合って良かった。後少し遅かったら、どうなってたか……」
この人が僕を助けてくれたという事なのだろうか。だとしたら、事の経緯は説明しておかなければならない。説明して、謝らなければ。
「あの……僕、ビルの上から飛び降りて……多分、歩道。コンクリートの歩道に落ちたんです。だから、助からない筈で、助かっても、こんなに無傷なのは奇跡みたいだって……」
「えっ? えと……ごめんなさい、もう一回言ってもらえますか?」
「あの……つまり、九階建ての高いビルの屋上から、コンクリートの地面に落ちたんです」
「ビル? コングー……コングーリット? 良く分からないけど、高い所から落ちた事があって、怪我しなかったという事ですか?」
「いや、なんというか……どうしてあんな目に遭って、怪我一つしてないのか分からないんです」
「どうして怪我してないか……ああ、なるほど。高い所から落ちて、ああなったんですか。ええと……貴方は多分、高い所からコウチに落ちて、積み荷がクッションになったのかも。ワムヌゥもびっくりしてましたよ。でも、あの辺りに高い物って何かあったかしら……」
「ワムヌゥ? コウチ? 高い地面って書いてコウチですか? どこかの訛りかな……」
「え? 地面が高い?」
「いえ……その……」
「ああ、もしかして……」
「何です?」
「お医者さんは頭を強く打ったって言ってたから、まだ記憶が混乱してるのかも。もうちょっと休んだ方がいいですよ」
女の人はそう言うと、僕の肩と背にそっと手を添えて、仰向けに寝かせてくれた。
「あ……ありがとう」
「どうしたしまして。じゃあ、また後。……そうね……その様子なら、ご飯くらいは食べれそうですよね。ご飯時になったら呼びに来ますから、その時まで、どうか安静にしてて下さい。……あ、そうそう、着物とか、荷物はこの籠の中に入ってますから」
「は……はい。すいません、僕も何が何だか分からなくて……」
「いえいえ、こちらこそ。じゃあ、ゆっくり休んでくださいね」
女の人は、ゆっくりと扉に向かって歩き出した。
「あ……待って!」
女の人が扉の取っ手を掴んだ時、僕は叫んだ。
「はい?」
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