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魔法
――コンコンコン。
僕は、ドアをノックする音で目が覚めた。
「入ります」
ドアが開くと、エミナさんが入ってきた。
「寝てましたか?」
「いや……もう起きます。これ以上寝てても、何も変わらないって分かったので」
相変わらず甲高い、女の子の声だ。これは夢じゃない。現実。いや、やっぱりまだ現実かは分からない。夢から覚めたらまた夢だという事だってある。でも、どちらにしても、僕はこの状況の中で過ごしていかなければならないらしい。
「そうですか……食事の準備が出来たので……お腹、減ってません?」
「ああ……そういえば……」
いつから寝ているのか定かではないが、少なくとも今日一日は何も食べていないだろう。
その事を意識した時、急に空腹感を感じ、同時に「ぐぅー」とお腹が鳴った。
「あ……」
「ふふ……食事は出来てます。どうか遠慮なさらずに来て下さい」
「す、すいません……」
僕は顔を真っ赤にしながら、それでも空腹に勝てなかったので、エミナさんの後に付いていく事にした。
「あ……あの……」
テーブルの中央には、大皿に乗ったサラダと、丸いパン。それと、何かの肉を焼いたものと、豆の煮ものが置いてある。これは皆で取り分けて食べるための食べ物だろう。
個別の食べ物は、個々の前に置かれている。紫色をした飲み物と、野菜と、やはり何かの肉の入ったスープが置いてある。中心の食べ物を取るための取り皿も、同じく個々の前に置かれている。
「どうぞ、遠慮せずに召し上がって」
「自己紹介は、食べながらにしようじゃないか。貴方もお腹がすいているだろう? ささ、遠慮せずに」
真ん中の向かいに座っている女性と、その左隣に座っている男性が言った。エミナさんは男性とは逆の右隣に座っている。
「はあ……じゃ、じゃあ、頂きます」
僕はすっかり気遅れしている事を自覚しながら、取り敢えず、自分に一番近いスープを一口すすった。
「美味しい……」
僕は思わず声を出した。スープの味は、そこまで濃くない。が、野菜の味をしっかりと感じる。それがとても美味しいのだ。
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