103人が本棚に入れています
本棚に追加
「やだぁ! 美味しいですって。じゃあ、次、パン食べて。ここで取れた小麦を使ってるのよ。ああ、あと、実はハチミツもあるの。今、出して来るから」
椅子から立ち上がろうとする女性を、エミナが肩を押さえて制止する。
「ちょっと、母さん……ごめんなさい、記憶が混乱しているのに、こんなに騒いで」
この人は、どうやらエミナさんの母親らしい。とすると、その隣に座っているのはエミナさんの父親だろうか。
「驚かせてすまないね。私はシュー=パステル、エミナの父親だ。こっちは女房のリィンだ」
「初めまして。私はリィン=パステル、エミナの母親よ。エミナも、お父さんも、ロビンも、普段そんな事言ってくれないから、とっても嬉しいわ」
リィンさんがにっこりと微笑んだ。
「母さんったら、すっかりいい気分になっちゃって……」
エミナさんはリィンさんとは逆に、苦笑いしている。
「ええと……ロビンって?」
「ロビンはエミナの弟だよ。今は友達の家で遊んでるみたいだけどね」
シューさんが、豆をパクつきながら言った。
「もう、ロビンったら。夕飯の時くらい帰ってきたらいいのに」
エミナは不機嫌そうだ。
「そういうもんなんだよ。あの年頃の男の子って」
「そうなのかしら……って、こんな話してもしょうがないわよね。そうだ、そろそろ名前、教えてくれない?」
エミナが急に僕の方を向く。僕は頷いて、言った。
「えと、初めまして、桃井泉輝( ももいみずき)です」
「モモイミズキさんかぁ……よろしくね、モモイミズキさん」
「モモイミズキか、この辺りじゃあ聞かない響きだなぁ」
エミナさんとシューさんが、苗字と名前を繋げて呼んだ。
「ええと、桃井が苗字で、泉輝が名前なんです。苗字って言うのは……」
「ああ、苗字。じゃあミズキさんか、いい名前だね!」
シューさんが言った。苗字と名前の事も通じないだろうと思って解説し始めたが、通じていたらしい。
「あ、そうなんです」
「じゃあミズキさんって呼ぶね。何歳なの?」
最初のコメントを投稿しよう!