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シューさんが首を傾げた。勘が当たったらしい。
「そこからは良く覚えてないんですが……」
僕は、さすがに自殺の事は話しづらいので、誤って落ちてしまった事にして手短に話した。
「うーん……高い所から落ちて、意識を失ったわけか……で、遠い所から、何故かここのコウチの上に落ちたと……」
「俄かには信じられない話だけど……今までの話を考えると有り得る話だし……ここから遠くに離れてるのなら、文化とか言葉がちょっとくらい違ってもおかしくないし……母さんはどう思う?」
文化や言葉が少し違う。エミナさんの言葉に、僕はふと気付かされた。やはりここは東京じゃない。ビルから飛び降りた後、何故か助かって、誰かがここに連れてきたのかもしれない。でも、一体誰が……。
「ええ? 母さんに聞かれても、難しい事は分からないしぃ……」
「ああ、そうよね……」
「エミナ、母さんの性格を知っているだろう? ここは二人で考えるんだ。さて……一番可能性が高いのは、落ちた先に何らかの魔法が仕掛けられていたという事かな?」
「妥当な線だね……」
「ええ? ちょっと待ってよ、魔法って!」
「えっ、何かおかしい?」
エミナがきょとんとした顔でこちらを見る。どうやら冗談を言っているのではなさそうだ。僕は動揺したが、落ち着いて真面目に対応する事にした。
「ええと、魔法が存在するって事?」
「存在するも何も……ほら」
エミナがそう言いながら人差し指を立てると、その先にパッと炎が現れた。丁度、百円ライターから出る炎くらいだ。
「えっ……えっ!?」
「おおぉ! 凄いぞエミナ! もうノンキャスト詠唱が出来る様になったのか!? それも、苦手な炎の魔法を!」
そう。エミナさんが指先から炎を出す様子は、まさに魔法を使う様子そのものを見ているかのようだった。
ここは一体どこなのだろう。日本の中なのか外なのか……そもそも、僕は起きているのか。寝て、夢を見ているのではないだろうか。いや……僕は生きているか、死んでいるのか、それすらも分からない。死後の世界……ふと、そんな単語が頭に浮かんだ。
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