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「自分がピンク髪なのも、初めて知ったみたいだな……ううん……魔法の事も忘れてるとなると……これはもう、記憶の混乱どころじゃないかもしれん」
「え……」
ショーさんの言葉に僕は少したじろいだ。
「つまり……記憶喪失かもしれない」
「ええー!?」
僕、エミナさん、リィンさんは、三人同時に叫び声をあげた。。
「頭にショックを受けた人がなるらしい。ショックで記憶がごちゃごちゃになって……下の記憶は無くなるんだ」
「いや、そんな事は……一応、記憶はありますし……」
「いや、それでも分からないぞ。魔法を知らない人なんて、この辺りじゃ効かないし、聞いた事ない単語を何回も口にしている」
「いや、でもそれは……そうなのかな……うーん……そうかもしれないなぁ……」
「ま、それも、じきに記憶が整理されれば分かる事さ。それより食事を楽しもうじゃないか」
「ああ、そうだわ。秋刀魚焼きがそろそろ焼き上がった頃かしら」
「ああ! 秋刀魚!」
僕は思わず叫んでしまった。知っている単語がやっと出てきた安心感で、緊張が少し解けたのだ。
皆、驚いたように僕の方を見て、沈黙している。
「ああ、いや……秋刀魚は知ってたから……焼き魚でしょ?」
「ふむ……確かに焼いた魚だ……ああ、母さんは料理、取ってきていいよ」
「そうするわ。馴染みのある料理なら、きっと口に合うはずだから、待っててね」
リィンさんは、一度止めた足を再び動かし、流し台の方へと改めて向かった。
「お魚を知ってるって事は、海沿いの村の人かもしれないね」
エミナが言った。
「ああ。ようやく手掛かりが見えて来たな」
「海沿いね……うーん……海沿いと言えば海沿いだけど……」
東京都は海に沿っているが、漁業が盛んとは思えない。この人達と僕の物事のとらえ方は、やっぱりどこか違う。
「はい、秋刀魚焼きよ」
ミトンをつけたリィンさんが、秋刀魚が四尾乗っている大きなお皿をテーブルに置いた。
「本当に秋刀魚だ……」
僕は更にほっとした。少なくとも、ここは異世界ではないか。魔法が本当なら、ここが映画なんかでよくある異世界なのは否定できなくなるが……秋刀魚があるから違うだろう。
「はい、ミズキちゃん」
「あ、ありがとうございます」
僕はリィンさんがお皿にとってくれた秋刀魚をまじまじと見た。
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