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「コウチが……暴走してる!」
急いで道に出たエミナは驚いた。
「まずはワムヌゥを宥めないと……あ……!」
エミナの視線の先には少女の……レミールの姿があった。このまま馬車が直進すれば、馬車は子供を轢いてしまうだろう。
エミナは全力でレミールの前に走り、ワムヌゥの行く手を遮った。
「荒ぶる風よ、厚き壁となって我が身を包み込め……ウインドバリア!」
エミナが両手を前にかざして叫ぶと、エミナの周りに突如として突風が巻き起こった。
そして、その風はエミナの前方に凝縮し、目に見える程に激しく、それでいて薄く広い空気の渦となった。
――直後、ワムヌゥは勢いを緩めずにエミナへと突進した。
「んっ!」
エミナは僅かに呻いたが、傷一つ負っていない。エミナの前に展開されているウインドバリアが、ワムヌゥの体当たりを防いだからだ。
ワムヌゥは我を忘れ、既に空気の壁となったウインドバリアに頭突きを繰り返している。これ以上はエミナに近付けないだろう。
「レミールちゃん、逃げて!」
エミナは後ろを振り向きながら言った。
「え……え……」
「あそこのお家に向かって走るの!」
エミナは首を少し動かし、目線で傍らの家屋を示した。
「う……うん!」
レミールは、エミナが示した家へと走り出した。
「頑張って、レミールちゃん!」
エミナはそう言って、ワムヌゥの方へ顔を戻し、きりりと眉を吊り上げた。
「後は……ワムヌゥを落ち着けなくちゃ……ウインドバリアを解除したら、多分、私がやられちゃうから……」
エミナはウインドバリアに添えていた左腕を空へと掲げ、人差し指を立てた。
「魔力の消耗は激しいけど……ダブルキャストなら……!」
エミナはそっと瞳を閉じて、呪文を唱え始める。
「哀哭(あいこく)を知らぬ者に悄々(しょうしょう)たる一滴(ひとしずく)を……ティアードロップ!」
エミナの人差し指の先端に青い光が現れると、その光はゆっくりとワムヌゥに向かい、同じくゆっくりと消えていった。
ワムヌゥは、ウインドバリアへの頭突きをやめた様子だが、まだ鼻息は荒く、興奮している。
「……もう、魔法は要らないかな?」
エミナはゆっくりとワムヌゥに近付いた。
「ごめんね、魔法で無理矢理に心を操ったりして」
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