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「またね......」
その言葉を最後に、ユラは倒れた。
「......ユラっ!!! ユラァァァァァァァァ!!!」
彼女の名前を叫びながら側へ駆け寄ると、首の下へと手を差し込んで身体を起こす。
ユラの腹からは、敵軍の剣の剣先が突き出している。そして、そこから溢れ出ている液体は、彼女の服を赤黒く染めていた。
「どうして......どうして俺なんかを庇ってっ!」
返事は無い。
「ユラ!!! しっかりしろ、ユラ!!!」
無意識のうちに彼女の頬に手を当てる。
その整った顔からは、徐々に血の気が引いてきていた。
絶対に死なせない、自分にそう言い聞かせてユラを抱いて立ち上がり、大きく息を吸う。
「【大裁鏡結・翔】!!!」
大きく地面を蹴ると、ユラに刺激を与えないように最小限の衝撃で離陸した。
戦火の炎を下に見て、辺りを見渡し自軍の拠点を見つけると、そこへ向かって煙空を飛翔する。
着陸も最小限の衝撃で済ませると、医療班のテントへ急いで駆け込む。
「医療班っ!!! ユラが!!!」
俺がそう叫ぶと、もともと強張っていた医療班の表情がより一層強張る。
「ユ、ユラ様っ!!!」
ユラをベッドに寝かせると、医療班が数名がかりで治療を始める。
「ユラを頼んだぞ」
医療班の班長にそう告げると、彼はとても驚いた顔をした。
「何を仰るのですかラルド様!!! 少し診ただけですが、ユラ様はとても危ない状態です。こんな時こそ、あなた様が側にいて差し上げなくては......」
「俺はユラを刺した奴を殺してくる......。それだけじゃない、今は敵軍の戦力が分散しているんだ。敵将を討つなら今しかない」
「頼んだぞ......」
もう一度そう言うと、班長に背を向ける。
ユラの意思を尊重するならば、今はそれが最善策だ。
「お気をつけて!」
背後から班長の声が聞こえた。
テントを出ると、もう一度魔法を唱えて空へと離陸する。
先程とは違う空っぽの腕でいろいろな思いを抱きしめ、最前線へと舞い戻った。
敵軍が見えてきたところでホバリングをし、また大きく息を吸う。
「【月鏡顕現・剣】」
空中で剣を呼び出すと、急降下してその勢いのまま敵軍へと突っ込んだ。
上空から持ってきた衝撃が、敵兵をまとめて吹き飛ばす。吹き飛ばすついでに十数人ほど切り殺した。
その中にユラに剣を突き刺した奴は含まれていない。
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