悲鳴

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「他者の命を背負いこむなど、お前も難儀な性分だ」 「私は、彼らに……救済を――」 「死に救いなどない」  ライエルが墓の前で、処刑台の上で繰り返し胸中に抱いた言葉を、女王が一言で切り捨てる。ライエルが反射的に声を荒げた。 「死を望む者にとって、死は救いだ。二度と罪を重ねずに済むのだから! 誰もが死の間際には歓喜の悲鳴を上げてきた! だからこそ、陛下も死を望まれるのではないのか!」  叫んだライエルが、気を落ち着けるように呼吸を深くする。アルミラは首を横に振り、諭すように言葉を作る。 「この世に死を望む者など居らんよ。行き詰まり、死しか見えなくなってしまう者は居ろう。しかしそこに選択が無い以上、望んだ結末ではない」  女王が立ち上がる。 「彼らの死は贖罪であって、救いではない。死に救済などあるものか」  ゆっくりとアルミラが一歩を踏み出す。恐れを抱いたように身を硬くしたライエルの顔に手を伸ばす。ライエルの瞳は乾いていたが、その手は涙を拭うように頬をそっと撫でた。 「お前には、申し訳ないことをした。私が、お前を壊してしまった」 「私は、壊れてなど――」 「よい。贖罪の時だ。私にとっても、お前にとっても」  アルミラが立ち尽くす男を置いて、その奥の斧へ手を伸ばす。 「この国はこの先、良き方向へと向かうだろう。それを私はこの目で見たかった」  重い斧を抱くように引き寄せ、アルミラがライエルへと向き直る。 「誰もが生きたいのだ。私も、私が殺した者たちも。故にお前が仇を討たねばならぬ。お前の意思で。命じられるままに殺した事をお前が罪だと呼ぶならば、意思をもって贖罪を成せ。罪人は目の前に居るぞ、処刑人よ」  斧の頭で冷たい石の床を突き、ライエルへと差し出す。 「私……私は、償うことができるのですか」  すがるような問いに、アルミラが頷く。その力強い意思に後押しされ、ライエルがおずおずと斧に手を伸ばす。アルミラは決しては急かしはしない。  斧の柄にライエルの手がかかった。そっとアルミラが斧から手を離し安堵の息を漏らす。 「これが血染めの女王の治世に流れる最後の血となろう」  女王がその場で膝を折る。静々と首を差し出す様は、罪人の最後にしてはあまりにも美しい。  彼女を見下ろし、ライエルは斧を持ち上げる。  躊躇うように目を瞑り、言葉無く一気に斧を振り下ろした。
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