赤ずきん

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純粋無垢な女の子が木の影からちらちら見える。 わかってる。あの子は人間だ。 真っ赤なずきんに紫色の瞳。白い頬。 綺麗に三つ編みされた白い髪。 今にも手に入れたいくらいに可愛くて、 ましてやこんな森の中でも映えるくらいの子なんて そうそういない。 わかってる。僕は狼だ。 茶色の毛に赤の瞳。毛まみれの頬。 なにも手入れのされてないただ大きいだけの体。 そこら辺にいそうな動物であって、 ましてや人間を食べるくらいの存在である僕に 話しかけるなんて出来るはずがない。 わかっていた。あの子が僕を恐れていることを。 人伝に聞いた狼の噂。嘘ばかりの話。 そうであってもあの子は信じていたんだ。 でも僕はあの子を目で追ってしまう。 恐れていると知っていても。 一生あの子の笑顔が傍で見れないと思っていても。 わかっていた。あの子が僕に気づいていることを。 怯えている紫色の瞳。涙だらけの目。 そうであってもあの子は僕に近寄ってきたんだ。 でも僕はあの子に近寄れない。 自分には勇気があると確信していながら。 一生こんなことなんて起きないと思っていながら。 わかってしまった。僕はあの子が好きなのだと。 気付かないふり。偽った本心。 あの子の真っ直ぐな瞳が、僕を動かした。 もしかして狼を哀れだと思ったのだろうか。 その子は僕の頬を白い手で触れた。 にこっと微笑んで、そっとパンを差し出した。 わかってしまった。その子は僕に気づいたのだと。 昔の恋人。変化した体。 その子の触れた手が、僕の姿を変えた。 もしかして時が止まったのだろうか。 僕はそっと顔を近づけた。 ふふっと微笑んで、そっと抱き合った。 ゆっくり解いてあげた。 ふとその子を見ると 赤いずきんで顔を覆っていた。 ゆっくり顔を覗いた。 ふとその子を見ると 白い頬がほんのり赤く染まっていた。 その子ははっと何かを思い出したようで 一度見たあの笑顔で 「またね」 とだけ呟いた。 蝶々が森の中を鮮やかに飛んでいった。
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