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母が包丁を取り落とし、崩れ落ちるようにして死んでいく。
手の中で握りしめていたはずの飴玉は、いつの間にか無くなっていた。
それから私は叔母夫婦の下で暮らし、やがて中学生になった。黒い男は度々私の目の前に現れたけれど、何もせずにただ佇むだけだった。
ある平日の朝、黒い男は私の部屋に現れた。私は彼に背を向けて鞄の前でうずくまり、震える声で言った。
「学校行きたくない……」
私を虐める人たちがいるから、と私は呟いた。叔母夫婦を心配させないために、虐められながらも無理に学校へ通っていた私の精神は、もう限界だった。
涙が止まらない。どうしても目の前の鞄を持つ勇気が出ない。私は静かに泣きながら、自分がこのまま枯れてゆけたらいいのにと思った。
黒い男は何も言わず、再び空気に溶けていった。
そしてその日の臨時学年集会で、私を虐めていた人たちが集団で交通事故に遭ったことを知らされた。
小刻みに震える校長の声さえ耳に届かないまま、周囲の嘆きの中で私は、ありがとう、と呟いた。
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