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たぶん私の体は、間もなく生きることを止める。
ナオヤの姿が見えるということは、つまり、そういうことなのだろう。
「本当は助けてやれたらいいんだけどな」
泣きそうな声だった。
「ナオヤの居ない世界に居るの、もう嫌だよ」
私はナオヤに触れたくて手を伸ばそうとしたが、ぴくりとも動かない。
それでも必死に力をこめたら、ずるんと重い皮が脱げたように体が軽くなった。
ナオヤが手を差し伸べてくれる。
しっかり握り返す私の手は、12歳の頃の幼い形をしていた。
「ナオヤ」
幸福感で胸がいっぱいになる。
「サチは俺が居ないと笑えないんだな」
私は笑い方を忘れていなかったらしい。
「誰も笑わせてくれない世界に一人にしてごめん」
ナオヤは輝くような笑顔で言ってくれた。
「一緒に行こう」
暖かな光の差す方へ、私たちはしっかり手を繋いで駆け出す。
あの夏の悲鳴が、やっと止まった。
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