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「待って!待って!行かないで!」
そう叫ぶ私にゆっくり振り返った彼。どこか寂しそうな微笑みで言った。
「この街から出て行くことを言わなくてごめんね。言うとこうなることが分かってから」
「それでも!……言わないで行くよりも、まだ言ってくれた方がマシよ……。だって、もう会えないのよ?……最初から言ってくれれば私……」
『貴方にもっと言いたいことがあったのに』と言う言葉は溢れてきそうな涙をなんとか堪えるのに必死で言えなかった。すると、何故か彼は明るい声で言った。
「大丈夫、離れ離れになるけどもう会えないわけじゃない。それに僕は、君に笑顔で見送ってほしいんだ」
「……分かったわ」
それが彼のお願いならばと、泣きそうな顔をやめ、笑顔で見送る。その時に、両端から溢れた涙には気づかないふりをした。
「……もう行くね。また、いつかどこかで会えることを願ってるよ。……さよならは言わない、"またね"」
悲しそうな微笑みで彼はそう言うと、行ってしまった。それから、彼の背中が見えなくなるまで私はずっと見ていた。
「……そうね。私達はもう会えないわけじゃない、またいつかどこかで会いましょう。それじゃあ……"またね"」
寂しい気持ちもあるが、またどこかで会えることを信じて私は上を向いて歩いた。
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