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――AM8:30 津島(つしま)物産 総合受付
口から心臓が飛び出しそうなくらいガチガチに緊張している私を見て、受付の先輩が開口一番、驚きの声を上げる。
「……まさか、すっぴん?」
やっぱりか……と下を向き、小声で「はい」と答えると「……あり得ないんだけど」って言葉が返ってきた。
先輩は、ウェーブが掛かった柔らかそうなブラウンの髪を緩く一つに纏め、まるでファッション雑誌から飛び出してきたようなスレンダーな美人さん。その先輩の桜色の唇が微かに歪む。
予想はしていたが、先輩の想像以上の反応に一瞬たじろぎ、一歩後ずさる。
「確認の為に聞くけど、あなた、今日から受付に配属になった大沢 茉耶(おおさわ まや)さんよね?」
「は、はい……大沢ですが……」
遠慮気味に答えると、先輩はマスカラで固めた長い睫毛をバサバサさせて私の顔を覗き込んできた。
「意表を突かれた……」
「意表……ですか?」
「そう、私より可愛い娘が来たらどうしようって思ってたけど、まさかこんなダサダサな娘が受付に来るとは思わなかったわ」
先輩が驚くのも無理はない。でも、受付に配属された事を一番疑問に思い戸惑っているのは、他でもない私自身。
私が希望表に書いたのは、第一希望も、第二希望も、第三希望も、全て事務職。受付の"う"の字も書いてない。私なんかより綺麗な人がうじゃうじゃ居たのに、どうして私が受付になったんだろう?
今更ながら、自分の運命を呪いたくなる。
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