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そもそも、私はこんな大企業に就職しようとは思っていなかった。
実家近くの信用金庫から内定を貰い、就職するつもりでいたんだもの。なのに、母親が勝手にその内定を断ってしまい東京に行けと言い出したんだ。
私の母親は東京出身で、田舎に嫁いだ事を後悔していた。だから娘の私には、華やかな都会で思う存分青春を謳歌して欲しいと思った様だが、それは要らぬお節介。ハッキリ言っていい迷惑だった。
なるべく目立たず地味に生きていきたいと思っていた私には、東京は刺激が強すぎてストレスが溜まる一方。おまけに、こんな超有名な上場企業に就職させられ戸惑いの連発。今すぐにでも田舎に帰りたい気分。
しかし、あんなに私の東京行きを喜んでくれた母親の事を思うと、少しは我慢しなくてはと思ってしまう。そう、私は強く出られると自分の言いたい事も言えなくなるヘタレなのだ。
そして、この総合商社、津島物産に就職したのも親のコネ。母親が父親の後輩の町会議員に私の就職の斡旋を頼み、どこでどうなったかは知らないが、この津島物産の縁故枠で面接を受ける事になっしまったんだ。
――で、見事に採用されてしまった。
そういうワケで、私は今、配属された受付で先輩の冷たい視線に耐えている。
「あの、やはりお化粧しないとダメでしょうか?」
「ダメって……別にどうしてもメイクしなきゃいけないって決まりはないけど、そんなの常識でしょ?」
カウンター内の椅子にドカリと座り、呆れた様にため息を付く先輩は不機嫌この上ない。
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