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「実は私、お化粧をした事がなくて……今、練習中なんです……」
「はぁ~? 二十歳過ぎた女がメイク出来ないってどういう事よ? それに、その髪型もなんかモサッとしてるわね~」
「……すみません」
先輩は気怠そうにカウンターの下にある引き出しから接客マニュアルを取り出し、私の前に放り投げた。
「それ読んどいて。来客があったら起立して挨拶。誰に取り次ぐか聞いてアポがあるか確認する。あ、社内の役職者の名簿と内線番号はパソコンに入っているから。とにかく愛想良く笑顔を絶やさない事。いいわね?」
「は、はいっ!」
これから一緒に仕事をする先輩に嫌われてはマズいと、直立不動で接客マニュアルを必死で読む。すると今度は、座ってこっそり読めと叱られた。
「そんなとこでボケっと突っ立ってたら周りから丸見えでしょ? ったく……私の指導が悪いって評価下げられたらどうしてくれるのよ!」
「あ、あぁ……今後、気を付けます」
何をどうしていいのか分からない。分かっているのは、どんどん深みにハマっていってるって事。そして、やっぱり私はこの仕事には向いてないって事。
どんよりした気分で顔を上げると、受付カウンター真正面の玄関から次々と社員が出勤してくる姿が見え、その中に、研修で見掛けた顔がちらほら確認出来た。
キリリと引き締まった顔で、二階まで吹き抜けになっている広いエントランスを堂々と胸を張り闊歩する同期達。私みたいにオドオドしてる人は一人も居ない。
どうしてあんなに自信に満ち溢れた顔をしているんだろう? 私とは違う人種みたいだ……
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