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――そして、翌日から入社式が行われた会館の一番大きな会議室で、新人研修が始まった。
この会館で研修を受けるのは、東京本社勤務の者だけ。それでも百人近い人が居るから、会議室はすし詰め状態だ。
私は初対面の人と関わるのが大の苦手。なので、こういう場は苦痛でしかない。
でも、昨日の入社式で隣に座っていたあっけらかん女子、谷本 麗美(たにもと れみ)さんが何かにつけ私を気遣ってくれ、常に隣に居てくれた。だからなのか、妙に安心して研修を受ける事が出来た。
この麗美さん、見た目は派手で軽い感じだけど、根は優しくて凄くいい人。それに、結構有名な国立大を出ている才女らしい。人は見かけによらないな。
すっかり花が散り、若葉が芽吹いた桜の木の下のベンチで、いつもの様に麗美さんとお弁当を食べていると、珍しく彼女が大きなため息を付く。
「あ~ぁ、今日で研修終わりだね。午後に配属先が発表されるけど、どこに行くのかな~」
「麗美さんは秘書課希望でしたよね?」
「うん、第一希望から第三希望まで、全部秘書課って書いといた。秘書課以外は無理! 茉耶(まや)ちんは事務職希望だったよね? なんか普通でつまんなくない?」
「私は麗美さんみたいに美人でもないですし、なんのとりえもないから普通のOLで十分です」
麗美さんに笑顔を向け、完食したお弁当に蓋をした時だった。麗美さんが自分の鞄から花柄のポーチを取り出し、それを私の膝の上に置く。
「これ、茉耶ちんにあげる」
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