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「だから微妙に歪んでるんだ……」
「えっ? 目立ちますか?」
「……結構、目立つ」
「ひぇ~っ」
驚きで仰け反る私を呆れ顔で見つめていた麗美さんが、スマホを手にしたとたん、慌てて立ち上がる。
「わっ、もうこんな時間。早く戻らないと怒られちゃうよ」
どの辺が歪んでいるのか聞こうとしたのに、麗美さんは一目散に駆け出し、私も仕方なく彼女の後を追う。研修が行われている会議室に入ると、既に人事部の課長が来ていて分厚い紙の束を抱えていた。
あれが辞令か……
入り口近くの席に麗美さんと並んで座り、上目遣いで課長を見つめる。さすがの麗美さんも緊張してるのか、膝の上で両手を組み祈る様に俯いている。
部署ごとに配属される人が呼ばれ課長から辞令を受け取ると皆の反応は様々。希望が叶えられた人と、そうでない人。ため息と歓声が入り乱れる。
「――では、次……総務部、秘書課」
一人目の名前が呼ばれ、二人目の名前が呼ばれるも、麗美さんではなかった。そして、三人目は……
「――谷本麗美さん」
希望通りの秘書課に配属が決まり、よほど嬉しかったのだろう。麗美さんは「よっしゃ~!」と叫んだと思ったら凄い勢いで立ち上がり、課長に向かって突進していく。で、辞令を受け取ると、まるで天下を取ったみたいなドヤ顔で拳を天に突き上げた。
良かったなって私も笑顔になるが、次の瞬間、その笑顔が凍り付く。
「それでは、次……総務部、総務課、総合受付。大沢(おおさわ)茉耶さん」
えっ? 今、私の名前呼んだよね? でも、受付って……
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