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せっかく屋敷で働くんだから、と、毎日セットしているツインテールもうまく決まっていることを確認し、彼女は歩を進めた。
イヤだイヤだと考えていてばかりいると、時が経つのが遅く感じるモノだ。
だが、彼女が気がついた時、廊下の明かりは薄暗くなっていた。
こうなると、もうあの部屋は近い。
すぐに彼女は部屋の前に着いてしまった。
閉じている扉の脇に置かれた、台座に盆を置くと、
「…すぅ、」
彼女は深呼吸をした。
そして二回ノックをすると、
「お嬢様、お食事をお持ちいたしました。」
自分が思う、落ち着いた礼儀正しい声を出してみせた。
「はーい♪」
間髪入れずに返ってきたのは明るい女の声だった。
その女によって、扉は開かれる。
「ありがとう、チンクエ!」
チンクエにはその女がとても同い年の二十歳には見えなかった。
この部屋に来る度に彼女は思う。
この人はなんか、自分よりも、幼いような気がする。
「わ、今日のは凄く美味しそうね!」
女は盆を手に取ると、目を輝かせながら己の昼食を眺めた。
「そ、そうですか?私にはよくわからないです。」
チンクエは彼女と部屋へ入ると、取り繕った笑顔を顔面に貼った。
「ワタシは昔から毎日食べてるから、違いがわかるのよ、新人さん♪ここでの仕事は慣れてきたかしら?」
「は、はい、おかげさまで…。」
「そう、良かった!」
そう、確かに慣れてきた。
ここに料理を運ぶことも。
「最初はよく間違えてたけど、今日はちゃあんと『二人分』用意してるわね♪」
料理は『二人分』持って行かなければいけないことにも。
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