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「……ってあら、フォーク一本、足りないわよ?」
その言葉を聞いて、チンクエは単純に気が滅入ってしまった。
この部屋の近くにキッチンはない。
先程通った長い廊下を、再び戻らなければならない。
単純に、しんどい。
単純なミスの所為で、走って取りに戻らなければならない。
「え……あ、す、すみませんすぐお持ちいたします!」
やってしまった、と思う若い気持ちとは裏腹に、チンクエは真摯に、そして深く頭を下げた。
彼女が急いで走っていく様は、女…シークの目には映っていなかった。
シークはチンクエが残していった料理をじっと見やると、溜め息を吐いた。
「…もう。」
「そんなに膨れるなよ、シーク。」
この場には、シーク一人しかいない。
そのハズなのに聞こえてきたその声は、彼女自身の口から発せられていた。
そしてそのまま、彼女の耳朶を打つ。
「だってお兄様、早く食べないとせっかくの料理が冷めてしまうんですもの。」
それに違和感を感じることなく、彼女は一人で会話を続けた。
――――――
チンクエが部屋に戻ってきたのは、それから数分後のことであった。
「はぁ、はぁ…お待たせいたしました、お嬢様!」
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