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すみません、と言わんばかりに、彼女はフォークを高らかに掲げた。
それを見るシーク。
だが、その瞳は、今は彼女のモノではなかった。
それ以外の誰かのモノとなっている目線は鋭かった。
「おいメイド。次は気をつけるんだぞ。」
「え、あ、は、はい……え、っと…?」
チンクエにはわかっていた。
だが、どうしても狼狽えてしまう。
わかっていても狼狽えてしまう。
仕事には慣れても、『これ』にはまだ慣れない。
だから、憂鬱。
だから、この部屋には来たくない。
シークのことが嫌いなわけではない。
ただ、どうしても、うまく、対応できない。
「……こいつの双子の兄のエータだ。いい加減覚えろ。」
シークのこの病には。
エータのモノとなっていた瞳は、体は、すぐにシークのモノへと戻る。
「お兄様ったら、そんな怖い顔しないの。」
一瞬でこうも人格がころころ変わってしまっては、ただ、本当に、単純に、困る。
チンクエは絞りだした声で、小さく、すみませんと言った。
「それよりチンクエ、今日はセッテは来てるの?」
「ぁ、…セッテさんですか?そういえばさっきすれ違って…。」
言い終わるよりも早く、開け放たれたままの扉から彼は入ってきた。
「お呼びですか、お嬢様。」
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