577人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの時のキスもこんなだったか?」
微かに頭を振る。感触がまだ残っていた。
「ちゃんとしろよ」
「できるか。ここで」
藍沢は少し屈んで笑うと、俺の肩に腕を掛けた。ぐっと引き寄せられる。
「さっきの言葉に嘘はないな?」
甘く掠れた声が真剣に響いた。
「恋人と別れてくれるのか?」
「恋人がいるなんて嘘だよ。あれは最後の賭けだったんだ。おまえがいつまで経っても俺を好きだって言わないから、ひと芝居打った」
「…………最低だな。さっきの言葉は撤回する」
「もう無理だ。タイムアウト。おまえは俺のものだ」
藍沢は背中に回している手に力を込めた。ぎゅっと抱き締められる。
「空港でおまえを見た時、思ったんだ。ラストチャンスだって。ダメでもいいから気持ちを伝えようと思った。自信はなかった。つい数時間前まで、おまえは深美が好きだったと思ってたんだ。でも……おまえが見てたのは深美じゃなくて俺だったんだな。それが分かった」
「自惚れてる……」
「あはは。なんとでも言え。あの頃、おまえの心が読めなかったのは、俺がどうしようもなくおまえに惚れてたからだ。でも、それだけじゃないよな?」
「…………」
「まぁ、いい。泣いて追い掛けてきたのは事実だし。俺は最高に幸せだ」
甘い声が耳元で響いた。
「神様っているんだな」
藍沢は小さな声でメリークリスマスと続けた。
藍沢の肩越しに朝日が見える。
もうあと少しだけ、雪よ解けてくれるなと心の中で祈った。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!