第1章 うつら

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アンゲロスは言った。 「何もかも君の好きに作ればいい。空、大地、生きるもの全て、君の好きな形に作ればいい。空も、大地も、生きるものも要らなければ、それも好きにしたらいい。どんな世界を作ろうと、君を(さば)く者はいない。罰も与えられない。さて、君は何を作る?」 私は聖書に書かれた神の様に天地を創造し、新しい人類を始めとした、多くの生物を作った。 美しいと思い作ったが、奇怪な姿をしたものもあったかも知れない。 それらの住まいをデザインすると、気に入った人類や生物に私の意思と共に知恵を与えた。 それは、与えられたものにとってはインスピレーションの様なものとして(とら)えられ、そこから私の望むような進化や文化が生まれた。 私達人間を作った神が本当にいるのならば、こんな風に自分の作った世界を操作しながら、覗いているのではないだろうか、そう思った。 自分の創造した生き物が思い通りにならず、醜い繁殖を遂げると、それを嘆き、簡単に滅ぼしては、もう二度とこんな事はしないと思いながら何度(いくど)となく、それを繰り返し、望むような生き物が栄え、平和が世界に隅々まで満ちると、今度は刺激が欲しくなり、(いさか)いの種を蒔いて残酷な話を作り上げたりするのだ。 神の喜びとは創作と破壊する行為なのではないか。 永久に流れる時間の中、その世界の細部まで造る作業は現実より楽しく、目覚めたくないと思う程だった。 アンゲロスは、ある日言った。 現実の世界で、あの森の湖に身を投げれば永遠に、この世界を一緒に作っていけるのだと。 今思えば、私を死の淵へ誘う彼を、天使と呼ぶより、堕天使や悪魔と呼ぶ方が正しかったかも知れない。 しかし私は森に行く事はなかった。 夏が終わり避暑地を離れ、当然のように現実を生きた。 そしてその内、森の事も、アンゲロスの事もすっかり忘れてしまったのだった。 ★★★
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