第2章 現実

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「そんなに私は君と死にたがっているのか」 「そうだよ。生への強い欲望と、死への強い欲望は例えて言うなら、コインの裏と表なんだ。それは簡単にひっくり返るんだ」 「ひっくり返した覚えはないんだがね」 「森の意志が、あなたに、僕を夢に見る力を与えたんだよ」 「森の意志?」 「あなたが子供の頃に、森に来たあの夏にも、森の意志が夢を見る力を与えたよ。身に覚えがあるよね。あの時は何で湖に来てくれなかったの。あなたの好きなルードヴィッヒ2世と同じ死に方だよ」 「おとぎ話としては悪くないが、あまりに非科学的で信じられなかったんだよ」 「じゃあ、こんな夢を延々と見続けるのは何で? あなたの頭が壊れてるって事かな」 「そうかも知れないな。それなら科学的に証明出来る」 「あなたは気が触れるほど繊細な人間じゃないでしょ」 「人を単純な人間みたいに言うな」 「ねぇ、ファントム、教えてあげようか。森の意志は現実の僕にも夢を見せたんだよ」 「私と大きな湖に沈んで死ぬ夢を見たと言っていたな」 「怖い顔しないでよ。心配しなくても、現実の僕はあなたみたいに夢に溺れたりしないみたいだよ。兄さんを残して死ぬ訳にいかないってさ」 「そうか」
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