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「葵君、私は子供の頃、夢の中で何度も死んだんだ。夏休みの間、毎日、毎日眠る度に死んだ。その死ぬ場所が、この湖だったんだよ」
私がそう言うと、葵君が不思議そうに私を見つめた。
「湖? 何でそんな場所に僕を連れて来ようと思ったんですか?」
そう言われればそうだ。何故だろう。私は理由のない事をするのは好まない人間だ。
葵君の春休みに旅行へ誘い、此処に来たのには明確な意味があるはずだった。
「ぶるっ。落ちたら心臓麻痺で死ぬなー」
葵君が着ているダッフルコートのフードを被り、湖の前で震えている。
3月の避暑地は真冬並の気温だった。
「落ちるなよ」
「はい。だけど、何故、何度もここで死ぬ夢を見たんでしょうね」
「この湖を初めて見た時に思ったんだよ。私が死ぬのに相応しい場所だと。だからだろうか。この湖を初めて見てからひと夏、夢を見続けたんだ。私は夢の中、何時もこの場所で、水面から伸びた沢山の手に引き込まれて沈んで行くんだ」
私は葵君とこの場所に心中でもしようとしに来たのか。違うだろう。
「何それ、怖い。死んだらやだよ。ファントム」
葵君が小さな手で私の手を握る。
あぁ、そうか。葵君にそんな風に言われ、私は止めて欲しかったのか。
くだらない。まるで子供の様だ。
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