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「ねぇ、ファントム、もう、貸別荘に帰ろうよ。僕、この森が怖いよ」
葵君が繋いだ私の手をぎゅっと強く握る。
冷たい手だ。
「あの森は、鎮守の森と呼ばれているんだよ」
貸別荘に戻った私は言った。
全裸の葵君はベッドの上にうつ伏せて枕を抱えていた。情事の疲れかウトウトとしている。
小さな背中から、細いウエスト、形のいいヒップまでの曲線が美しい。
「ん……、ちんじゅのもり?」
葵君が目を開けた。
「日本各地には、神社や御神木を祀った、鎮守の森というものがあるんだよ。あの森には神社はないが、森自体を神体としている鎮守の森もある」
「日本人の好きな自然崇拝、精霊崇拝と言った所ですね」
「神隠しと言う言葉を知ってるか?」
「はい。人が突然行方不明になる事ですよね」
「あの森に入ると神隠しに遭うという言い伝えがあるらしい。実際、過去にあの森に入った小さな子供が2人、行方不明になったと新聞記事にもなっている」
「それ先に聞いてたら絶対行かなかったのに!」
ガバッと身体を起こし、葵君は大きな声を出した。
「ファントムのせいで僕も変な夢を見たよ」
「変な夢?」
葵君は微睡んだ一瞬に夢を見ていたと言った。
「僕とファントムが、大きな湖に沈んで死ぬ夢だよ」
「私の夢が伝染したか」
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