第1章 うつら

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眠りに落ちる度に私は決まって死んだ。 森の中にある湖の中心部に浮いた私の身体は、水面から出た沢山の手に引きずり込まれて死ぬのだ。 そうだ、夢はそこまでではなかった。続きがあった。 夢の中で初めて死を迎えると、私は何もない闇だけの空間で肉体のない再生をした。 肉体のない意識だけの世界。何も見えず、光が欲しいと思うと一瞬で光が広がり、私はそこで、全ての学問、美術、音楽に通じ、(つや)やかで、しなやかな肉体を持つ、美しい青年に会った。 青年の背中には6枚の白い翼があった。その姿を見れば、人は誰でも天使と呼ぶだろう。 私も彼をアンゲロスと呼んだ。 アンゲロスは私に言った。 「光の他に、私以外、ここには何もない。だが、君が望めば好きな様に、世界を創造出来る。試しに空と大地を作ってみたまえ」 アンゲロスにそう言われ、私は自分の住む街とオリオン座の(またた)く夜空を思い描いた。 瞬時に冷えた空気と共に、思い描いた風景が広がり、アンゲロスはそれを見て笑って言った。 「現実と同じものを作っても、面白くないだろう? 星の名前を、君の好きな名前に書き換えたらいい」 私は聞いた。 「夜空に星団がいくつも見えたら、美しいと思わないか?」
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