終わりのきっかけ

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そしてぼくはたぶん、ママにも嫌われてしまった。 パパが出て行ったのがぼくのせいだから仕方ないけど。 ママはぼくのことを怒るようになった。 パパがいるときは、ママに怒られたことはなかったのに。 パパがいなくなったら、ママがパパになった。 あれからぼくはおばあちゃんの家に行くことが多くなった。 電車を待っている間、ママは一言も話さなかった。ぼくはママを元気にする方法を考えていた。 ママに褒められたい。 そうだ、あのパパが褒めてくれたんだから、ママも絶対褒めてくれるはず。 ぼくはドキドキしながら電車を待った。 電車に乗り込むと、空いている席を探したけど見つからない。 あっ男の人が席を立った。やった。 ぼくはごめんなさい、通してくださいと心の中で謝りながら空いた席へと急いで向かった。 やったぁ、これでママに席を譲ってあげられる。 いっぱい褒めてねママ。 「おい」突然、低い声が聞こえたので顔をあげると、さっき席を立ったはずの男の人がぼくを見ていた。 その顔は怒ったときのパパの顔にそっくりだった。 その男の人は、周りを見渡したあと、無理矢理に作った笑顔をぼくに向けた。 「僕はこのおばあさんに席を譲ったんだ、君の方がおばあさんより体力があるだろう?体力がある人が体力のない人に譲るのがかっこいい大人なんだ。わかるかな?」 ぼくの耳にはそう聞こえたけど、頭にはなにも入ってこなかった。 ママが来た。 ママに席を譲ろうとすると、ママはぼくの手を強く掴んで歩き出した。 電車を降りてからぼくはまたママに叱られた。 ぼくは叱られた理由が理解できなかった。 ぼくはただ、ママに褒めてもらいたかっただけなのに、 ママを助けたかっただけなのに。 ただひとつ、理解できたのは、ぼくはパパにもママにも必要とされていないということだけだった。 もうあの家に帰ることはない。 ぼくはとうとうママにも愛されなかった。
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