始まりのきっかけ

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「あの、、、かっこよかったです」隣に立っていた、女性が僕に声をかけてきた。 ばつの悪さが顔に出ていたのだろうか、気を使ってくれたのかもしれない。 本来、交わることのない知らない人の思いもしない気遣いに僕は救われた。 「あぁいや、ありがとうございます」 同時に電車は僕が降りる駅に着いた。 「ぼくはここで」 気遣いに対してなにもしないわけにもいかず別れの挨拶だけはした。 「あっ私もここなんです」 彼女は照れ臭そうに言いながら降りた。 改札まで同じ道程だから、なんとなくそのまま別れるのが気まずい空気になってしまった。 もしかしたら、彼女も降りる駅が近付いたこともあって勇気を出して声をかけてくれたのかもしれない。 「さっきは恥ずかしい所をお見せしてしまって、、、」 「いえそんな、すごくかっこよかったですよ」 同じくらいの年だろうか。すごく笑顔のきれいな人だなと思った。 「子供相手にむきになって大人として恥ずかしいですよ」 「そんなことないです。自分の子供でさえ怒れない人が多いのに、見ず知らずの子供に良くないことは良くないって言える方って素敵だなって」 こんな風に取ってくれる人があの車内に何人いただろう。 少数派であることは言わずもがな。 だが、知らない人からどう思われたって、構わない。 今しがた知人に昇格したこの人が良いように受け止めてくれているのなら。 失敗は帳消しだ、どころか手柄になったのだ。 落ちた気分がその反動でまるでトランポリンの様に飛び上がった。 「あの子が僕の子供なら、もっと怒りますよ」と冗談交じりに言うと、 「躾のできるいいお父さんですね」と笑いながら返してくれた。 僕は、気が付けば彼女を食事に誘っていた。 気分が乗っていたのもあったが、彼女の話し易さが一番の理由かもしれない。 初めて話したはずなのに話が途切れない。 波長が合うのか。 安っぽくなってしまいそうだからこの言葉は使いたくなかったが、運命だったのかもしれない。
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