弦月

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 湯屋を出てしばらく歩くと、男が言った。 「何か食べようか」  店に入ると、ぞろりとした身なりの痩せた男が片手をあげた。侑達を待っていたらしい。 「これが今度の子か?」 「ああ」 「相変らずお前の作品は一流だな」  そう言うと、侑の頤(おとがい)に指をかけ上を向かせた。  黒目勝ちの大きな瞳はどこまでも溟(くら)い色を帯びていて吸い込まれそうだった。精緻な造りの顔立ちはまるで人形のようだ。  しばらくすると、小女が酒と饂飩を持ってきた。 「食べていいぞ」 「はい。いただきます」  侑は饂飩を食べ始めた。  男たちは酒を飲みながら商談を交わしている。 「で、こいつの名は?」 「サン、って呼んでいる。三番目のサンだよ」 「なるほど。じゃ、名前はこっちでつけていいな」 「ああ、好きにしてくれ。で、いくらくらいになりそうだ?」 「そうさなあ。先ずは“味見”してからでないと」  痩せた男は言った。 「おいおい。勘弁してくれよ。いま湯屋に行ったんだぞ」 「口で構わんよ」 「仕方ねえな。サン、奥の部屋へ行け」  侑は慌てて饂飩を食べ終えると、黙って頷いた。
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