弦月

　口の中だけでなく、喉の奥まで青臭い臭いがする。客の興を削ぐからと、そうした行為の後、直ぐに口をゆすいだり水を飲むことは男から禁じられている。侑は目の前に置かれた湯呑から視線を外し自分の手の甲をじっと見つめていた。
「で、いくらくらいになりそうだ？」
「そうさなあ。最近はお上が煩（うるさ）くて前のようにはなかなか・・・」
　あからさまな人身売買は国際的にも批判を浴びて、明治政府は慌てて規制に乗り出した。表向き、娼妓や稚児の売買は禁止されている。
「それにしても・・・。もう少し出してもらわねえと。あんたの茶屋にこいつを渡すことはできないな」
　店を出ると、男は侑の肩を抱きながら、
「悪いようにはしねえよ」
　と、耳元で囁いた。