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「俺の勝ちだっ!」
勝ち誇った顔で、あいつはあたしにびいだまを持ってきた。いつもそうだ。宝探しゲームをやると、必ずあたしは負ける。でも今日こそは見つかるわけにはいかなかったのに。見つけてほしくなかったから、わざわざ池にびいだまをいれた宝箱を沈めたのに。満面の笑みで笑う顔はいつもは憎らしいけど、今日はそんな気持ちにならなかった。
「約束だよな?勝ったら相手の言うことを、何でも1つ聞くって。」
「わかってるよ。あんたの勝ちだからね。何?」
首をかしげて聞くと、あいつは急に真面目な顔をして、たったひとことつげた。
「行くな。」
「無理だよ。それはできない。」
「約束だろ?俺が勝ったんだから、いうこと聞けよ。」
「聞けない。だってできないもん。」
「約束破るのかよ!?」
あいつはあたしに驚くほど早く近付いてくると、あたしの肩を両手で掴んできた。
「約束したけど、そのお願いは聞けない。わかるでしょ?他のお願いにして。」
「嫌だ。俺はお前とこれからもずっとここで宝探しして、勝ち続けるんだ。」
そう言ってまっすぐにあたしの目を見てくる。あたしは顔を下に向けた。
「だから見つけてほしくなかったのに・・・あたしだってほんとは行きたくなんかないよ。あんたに負けっぱなしじゃ悔しいから、あたしの勝ちで終わりたかったのに。」
「勝たせるわけないだろ。連勝記録がかかってんだからな。」
思わず笑うと、肩を掴む手が放れた。顔をあげると、あいつは持っていたびいだまをあたしにみせつけた。
「これお前の宝物だよな?」
「え?そうだけど?」
「決めた。これは俺が預かっておく。」
「えっ!?冗談やめてよ。返して!」
慌てて手を伸ばしたけど、あいつはあたしの手が届く前に自分のポケットの中にびいだまをいれた。
「返してってば!」
「やだね。お前は負けたけど、約束破るんだろ?だからこれは俺が預かるんだ。だから返してほしかったら、帰ってこいよ。」
「え?」
「だからもらうんじゃなく、預かっておく。これが俺のお願いだ。」
そう言うと、あたしに背を向けて歩きだした。
「ずっと待っててやるよ。またな。」
背を向けたままだったから、表情はわからなかったけど、その言葉が嬉しくて、あたしもできるだけ大きな声で返した。
「うん!またね!」
そう言って別れたのが10才のときだった。
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