◆天神様の 細道じゃ

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 七つ送り、っと。俺は忘れないように手帳に書き込んだ。その後、看板まで粘ったが、有力な話は聞くことが出来なかった。程良く酔いも廻っていたし、翌朝なるべく早い時間の電車を使いたかったので、大将に礼を言って金を払い、酔客達に挨拶すると店を辞した。  ビジネスホテルに戻ると、勢いのないシャワーの温度を上げて頭からかぶる。酒で少しボンヤリしていた思考が、肌に当たる湯のおかげでシャッキリしてきた。  狭いバスルームを出るとフロントへ電話をして、明日の朝7時にモーニングコールを頼む。ベッドに腰掛けて、水を吸わないタオルでガシガシと髪を拭いながら、俺は居酒屋で聞き込んだ話を書き留めた手帳を開く。どうやらY村は、相当に閉鎖的な所らしい。うまく話を聞き出せればいいんだが。  それにしても、居酒屋の大将が語ってくれた『七つ送り』とは、何なんだろう。やけに胸の奥に引っかかる言葉だ。手帳の『七つ送り』の文字をボールペンでグルグル囲むと、俺はそれをテーブルに放り出しベッドに転がった。  何はともあれ、Y村に行ってみなくては始まらない。ゆっくりとやって来た睡魔に身を任せ、眠りの闇の中へ落ちて行った。
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