◆通りゃんせ 通りゃんせ

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 俺の記憶の中に、ポカリと浮かぶ光景がある。  山道のような、薄暗く狭く細い道が続いている。その道を幼い俺は、両親に手を引かれて歩いている。  道の先に見えてくるのは、巨大で古びた黒い鳥居。長い間、風雨にさらされて元の色が何色だったのか、分からない。もしかしたら、最初から黒かったのかも知れない。  無性に怖かった。  どうしてそんなふうに思ったのか、この先に行ったら、もう帰ってこれないような気がしたんだ。  場面が変わると、周囲には同じ年恰好の子供が何人もいた。  皆、正月のように晴れ着を着て、落ち着かなげにざわめいていた。  繋いだ手を強く握られて、俺は父親の顔を見上げる。父親は緊張した面持ちで、じっとどこかを見ていた。  そして聞こえてくる太鼓の音。  どん、どん、と音が響くたび、周囲の空気までが一緒にビリビリと震えるのが感じ取れる。  さらに籠められる力。  恐怖心がふくれあがり、俺は泣き出しそうになった。  しばらくして、白い着物の男達が入って来る。手には盆のような物を持ち、そこには木製の御札が積まれていて、一枚ずつ子供達に手渡された。  慣れない筆で、御札に自分の生年月日と名前を書いていく。書き終わった者から、御札を白衣の男に返す。  ただそれだけの事なのに、場の空気は痛いくらいに張り詰めているんだ。  再び、場面が変わる。  俺は両親に手を引かれて走っている。  父さんは後ろを頻りと気にしていて、母さんは涙でくしゃくしゃな顔をして、俺を急かしている。  俺は訳も分からず、引っ張られる腕が痛くて、尋常でない両親の様子が怖くて、言われるがままに足を運んでいた。  不意に、父さんが何事かを叫ぶ。母さんが物凄い形相で、俺の腕を引っ張った。 痛いよ 痛いよ 母さん やめてよ 腕が千切れちゃうよ ねえ 父さん 苦しいよ もう 走れないよ 止まるな! と、父さんが。 逃げるのよ! と、母さんが。 痛いよ 苦しいよ どうして走るの? 何で逃げなくちゃいけないの? 答えはない。 ただ……。背後から聞こえてくる、歌声。 ──この子の七つのお祝いに    御札を納めに参ります    行きは善い善い    帰りは怖い    怖いながらも    通りゃんせ 通りゃんせ──
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