第三章 二人のレイコさん

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 「ダメだろうか」  ……幻聴ではない?  「ダメではないです!」  あの合格発表日みたいに憂樹が優しく笑った。  私たちは膝立ちになり、どちらからともなく唇を近づけた。私のほおに憂樹の手のひらが添えられる。唇が重なったとき、全身がびくっと震えて恥ずかしかったが、そんなことすぐにどうでもよくなった。  ガシャンと音がして私たちは離れた。部屋の入口で母がトレーを落として、クッキーやジュースをぶちまけていた。私がキスすると必ず誰かに見られる運命にあるらしい。  三人で片づけて母が一階に戻ったあと、私たちは初めて誰にも見られないでキスをした。  「先輩、驚くでしょうけど、入学する前から先輩のこと好きでした」  「僕もだよ。ただ、君は袖高に落ちてほかの学校に行ってもう会えないもんだと思ってた」  私たちが合格発表日に出会っていたことを、いつからか分からないけど憂樹は気づいていた!  私はうれしくなってもう一度キスをした。  母が憂樹に夕食を食べていってと誘いに来て、憂樹も了承した。  部屋を出るとき憂樹が言った。  「以前、花畑さんに告白されたときに、ずっと前から好きな人がいるからと言って断ったことがある。その人のことは忘れようと思ってるから」  それはつまり言い換えれば、まだ忘れられないということか。でもそれは忘れようと言う憂樹を信じるしかない。  「信じます」  とだけ答えた。
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