第三章 二人のレイコさん

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 テーブルには、母と兄が並ぶ向かいに、私と憂樹が並んで座った。  「門倉さんは幽霊部の部長さんなんですよね」  うんざりしたように敬悟が口を挟む。  「母さんは幽霊部員というだけでオタクだと決めつけてるんだろうけど、門倉は全然違うから。去年まで手のつけられない不良で、柔道場の裏を喫煙所にしてやがったからおれも何度殴り合いのケンカをしたか分からないくらいだ。ケンカも強くて、柔道ならおれの勝ちだけど、ケンカなら門倉が勝つと思うよ」  敬悟が憂樹をかばうために言ってくれたのは分かる。でも、明らかに母はさっきより不安そうな顔をしてるんですけど!  「オタクではないけど不良……」  どっちもどっちだよね……。  「もう自分のためにケンカするのはやめました」  憂樹のさりげない言葉にドキッとした。それはつまり、私のためなら闘ってくれるということだろうか? 聞き返しはしなかったが、そうだとうぬぼれておくことにした。  翌朝、憂樹と付き合うことになったと香織に報告した。香織は喜んではくれなかったけど、かといって怒りもしなかった。ただ、その日のうちに顧問の先生に言って幽霊部を退部してしまった。  部員は三人いないと廃部になってしまう。  この日から令子も教室に戻ってきた。昼休み、令子に誘われて屋上に行った。  一枚の写真を私に見せた。屋上で寝ている憂樹に私がキスした場面の写真。  「ごめんなさい。全部私の仕業。私をいくら殴ってもいい。図々しいのは分かってるけど、それでも私は松島さんと友達でいたい」  私は令子を許した。ただ、一つだけ条件をつけた。――令子も幽霊部員になること。  令子はあっさり条件を呑んだ。〈幽霊部員のレイコさん〉がクラスで二人になった。ようやく私たちは名字で区別されるようになった。
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