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「うえ?」
信号で停車中のジェイク・ウォンは、窓をバンバンたたかれて、サングラスをずらし、外を見た。七尾はいったん、離れ、身振りてぶりで路駐を促す。
数メートル先にちょうどよい場所があったので、いぶかしく思いながら、車をわきによせる。
さあ、なんだ。
いったいなんなんだ。
ドアのロックをはずして待っていると、七尾が助手席に乗りこんできた。
しばらく二人無言で前を向いたままだ。
「なな……」
耐えきれなくなったJが口を開きかけたところ、助手席の七尾がJのひざの上に乗り上げ、両手でJの肩を座席に押しつけた。それから意を決したように唇を重ねる。
知っている舌だった。
柔らかい、唇。奔放な甘い舌。
一瞬ぼおっとして、すぐにスイッチが入る。逆に覆いかぶさる。
はあはあと呼吸も荒く、形勢を逆転させる。
七尾の唾液を味わいつくす。
そうしながら、狭い運転席で、背中側から細い腰に手をまわし、衣服と衣服の境目をさぐった。
指が素肌にたどりつきそう。
そう思った矢先に、七尾は身体を反転させた。
にじにじと助手席のほうにはいだし、ドアをあけ、上半身から外に出る。Jは思わず逃がすまいとその足首をつかむが、片方の靴が脱げだだけで、七尾は道路に転がりでた。
「七尾!」
ちらりとこちらを振り返った。髪が乱れ、唇が紅くぬれている。目がうるんでいた。それなのに、用は済んだとばかりに、背中を向ける。
「七尾、こら、どうしてくれんねん!!」
七尾の靴の片方を振り回しながらJが叫ぶと、怒鳴り返される。
「予防!!」
「は???」
「キスキス・スキス菌がいまパンデミックなんだよ!!」
「キスキス……?んんんん?なんて?」
「さすがに死なれたら寝覚め悪いんだよ!!」
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