キスキス・スキス菌

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 ニュース画面をたちあげて緊急事態解除の報を見せると、七尾は深く息をはいた。 「……あと何人まわるつもりだったよ」 「ええと、7人、いや、8人かな」  開堂は七尾の唇を親指できゅっとぬぐうように、押した。この柔らかい唇は今日いったい何人とキスをしたんだ。 「本当にもう、だれも死なないんだな?」  眉を寄せ、悲痛な表情だ。 「死なないよ。だいたい死んでもあんたのせいじゃないし」  その頭を自分の胸におしつけると、う、と言って、七尾は身体をこわばらせた。 「そんなわけないだろ。死んだら、俺のこと好きっていう誰かが死んだら、俺のせいだ」  七尾に恋こがれこじらせている奴は数知れず。 「今日はほかに誰とキスを?」 「感染したって連絡してきた奴……何人かと」  開堂はそれを聞き、さすがにイラっとした。感染もしていないのに、この騒動に乗じたものもいるだろう。 「ほかは?」 「お前以外に、二人」  二人。  それはそれは、だいぶ心当たりがある。 「ご苦労様」 「平気だ。誰かに死なれるより全然平気」  皮肉に対し何も返せない様子に、開堂はやや驚く。七尾は憔悴しきっていた。  舌うちしたい気分だ。 「キスで治るわけないだろ。むしろ悪化する」 「え、だって唯一の対処法だって」 「昔っから医者でも治せないって相場が決まってる」  うつむいた前髪すくようにして、弱った頬に触れる。 「ほら、俺のウイルスもう一度あんたにやるよ、ピンポン感染だ」  だいたい、細菌とウイルスは別物なのだ。人から人へはうつらない。  キスキス・スキス菌などと、ふざけた名前しやがって。  細い腰を抱いて、首根っこをおさえつけ、流し込むようにキスをする。  七尾は弱っていて、ただされるがままで、眉根をよせる。 「なあ、キスだけじゃ治る気しない。骨までぜんぶ食わせて」  周囲はキスをしている人々でいっぱいだった。まだまだ緊急事態なのだ。キスを繰り返す開堂と七尾を誰も見向きもしない。
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