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この口の中を何人もが舐めた。
そう思うと、開堂はもやもやと怒り、そして、劣情に苛まされた。
「……ん、もう、ん……っ、ふ」
「もっと、ほら、キスが足りなくて俺が死んだらどうすんの?七尾のせいだぜ?舌まるめるなよ」
「ンん、っ」
七尾の身体が熱っぽい。七尾も感染しているのだ。
それはそうだ。
こじれた恋愛をしているということにおいて、七尾の右に出るものはいない。
いずれにせよ、現時点では死に至るほどの重篤な症状にならないとわかってはいたが、症状が悪化しないために、七尾には本命のキス、唾液が必要だった。
それは年下眼鏡のあいつか、香港人か、または自分。もしくは他の誰かの。
開堂は膝の力が今にもぬけそうな七尾をささえ、その口腔に深く舌をつきさした。
「七尾、もっとできるだろ?……立ってられないのなら、つかまって、……いい子だ、ほら」
「身体が変だ……、」
「感染したのかも」
七尾は絶望の表情をうかべた。
「死んでしまう……」
俺にキスされているそばで何を言うか、と一気に不快になった矢先、七尾はうわごとのようにつぶやく。
「マリに、マリにキスしてもらわないと、」
そうきたか。
さすがの開堂も七尾の娘と闘う気はなかった。
「看病してやるから」
よしよしと頭をなでる。ぐったりもたれかかってきた。
キスキス・スキス菌。
本当に厄介な病気が流行したものだ。
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