七瀬へ

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「ふーん。だから、化学と生物か。確かに必須だな」 「翼、おまえは、何かなりたいものとかあるのか?」 ぼんやりとした思いはあるけれど、それを話す気にはなれない。 「まー、いろいろと考えてる」 「そっか、まっ、人それぞれだしな」 思っている道に進むのか、別の進路を選ぶのか……。 こうなりたいと口に出してしまえば、そこに嫌でも向き合わないといけなくなる。 これから先のことを決めずに、もう少し漂っていたいのかもしれない。 そんな曖昧さをどこかで手放せないまま、三年生を迎えた。 地学を選んだ生徒は全学年で二十人もいなかった。 そして、俺は和博を含めた、看護師を目指す生徒達と同じクラスになる。その中には七瀬もいた。 近づくことも、話すこともなかったが、すぐ後ろの席にいれば、いやでも目につく。 七瀬はいつも大人しく、女子ばかりの賑やかなクラスで、周りに同化するように過ごしていた。
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