七瀬へ

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マーブリングって、確か……。 小学生の頃、様々な濃淡や模様を出せるマーブリングに七瀬は大喜びし、しばらくは便箋を染めて俺に送ってきていた。 そういうとこは変わってないんだ……。 無くなったと諦めていた落とし物が、ひょっこり出てきたような嬉しさがあった。 「もし染めるなら何色がいい? うすいピンクとかにする?」 自分に話題が舞い込んだとき、少しだけ、賭けてみたくなった。 「空色がいいと思う」 好きな色や空のことを書いたことがあるけれど、覚えているだろうか。 「空色?」 「白い布だし、それを雲に見立てて、布地を空ぽく染めてみるとかは?」 「へえ、雲か……。空色なんて初めて聞いたけど、水色みたいな色?」 「水色よりも存在感はあるけど、濃すぎないし、派手にもならないと思う」 二人で布のことを話していても、七瀬は無言だった。 ちらりと顔を見たけれど、何も変わらない。 何かを期待したわけじゃないけれど、どこかで負けたような気になった。
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