ある一軒家にて

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「ま、また出た…のか?(幽霊が)」 「今そこに居たじゃない!(あんなに大きいゴキブリが)見えなかったの?」 女性は男性のすっとぼけにいささか苛立ちを感じつつ、家具と床の境目を指差している。 「そこに(幽霊が居たのか)?」 「そうよ」 「(幽霊って多分人間くらいはあるよな。何でそんな下の方に出たんだろう?)なあサヨコ。(その幽霊は)小さいやつか?」 「(ゴキブリの種類なんて知らないけど)凄く大きかったわよ」 「そうなのか!?俺には(幽霊なんて)見えないから全然分からないな…」 一般的な幽霊は人間大の身長なのだろうと思っていた男性は、絵本に出て来る様な鬼、数メートルの鬼が窮屈そうにしゃがみ込んでいるイメージで、天井を見上げた。男性が天井を這うゴキブリを見付けたものと勘違いした女性も、警戒して天井を眺めている。 「(あんなに大きなゴキブリが見えなかったなんて。)あなた、視力落ちたんじゃない?」 「(幽霊が見える見えないは)視力の問題なのか?」 「当たり前でしょ。今度眼科で視力検査受けて来て頂戴」 「ああ…(サヨコは凄いな。まさか霊感があったなんて)」 「そんな事よりあなたー、早く(ゴキブリを)何とかしてよー。このままじゃ寝れないわ」 「だから何で(霊媒師とかお坊さんとかじゃなくて)俺なんだよ」 なかなか行動に移してくれない男性に痺れを切らした女性は、自分が履いているスリッパの片方を脱ぐと、それを男性に差し出した。 「こういうのはオトコの役目でしょ。(ゴキブリ退治)頑張って」 「何を?」 「だ、か、ら…もう。言わないと分からないの?これで(ゴキブリを)叩いたらとりあえずお終いでしょ?」 「(幽霊にスリッパが)当たるのか!?」 それはこの男性にとって、今まで見聞きしてきた中で最も衝撃的な情報であった。 「難しいと思うけど、私(ゴキブリは)本当に無理だから。お願いあなた、頑張って」 「無理!?お前(幽霊が)見えるんだろ?どうにか出来ないのか!?」 「(ゴキブリ退治なんて)絶対やだー。怖いし気持ち悪いし」
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